在庫差異の原因をAIに探らせる前に、現場でそろえておくべきデータ項目
この記事の目次(9項目)
在庫差異の原因をAIに探らせたいという相談が増えていますが、入出荷履歴やロケーション別在庫がそろっていなければ、AIが参照できる材料がなく、原因の候補を出すこともできません。この記事では、原因分析の前に現場でそろえておきたいデータ項目と、項目ごとの粒度・更新頻度の目安を整理します。データの整備自体が、差異を減らす最初の一手になります。
なぜAIに投げても解けないのか
在庫差異の原因分析は、入出荷の記録、棚卸の記録、受注・出荷データ、返品データを突き合わせて初めて成立します。これらが別々のExcelファイルに分かれていたり、更新のタイミングがずれていたりすると、AIに渡しても突き合わせる材料が不足し、仮説を出すところまで進みません。AIの性能の問題ではなく、入力側のデータが揃っていないことが原因である場合がほとんどです。
さらに、同じ「在庫数」という言葉でも、システム上の在庫数、棚にある実在庫、受注済みで出荷待ちの数を区別せずに扱っている現場は少なくありません。この区別がないまま差異を探しても、どの数字とどの数字を比べているのかが分からなくなります。
最低限そろえておきたいデータ項目

以下は、原因分析の土台として必要なデータ項目です。すでに記録しているものが多ければ、分析の着手は早くなります。これらの項目は、どれか1つだけでは差異の原因にたどり着けません。複数の項目を突き合わせることで、入力ミスなのか、運用のタイミングのズレなのか、現場要因なのかを絞り込めます。
| データ項目 | 内容 | 望ましい粒度 | 更新頻度の目安 |
|---|---|---|---|
| 入出荷履歴 | 誰が、いつ、どの商品を、何個入れたか・出したか | 1件の入荷・出荷ごと | 都度 |
| ロケーション別在庫 | 棚・ロケーションごとの在庫数 | ロケーション×商品ごと | 日次、または入出荷の都度 |
| 棚卸記録 | 棚卸時点の実数と、システム上の数の差分 | 商品ごと、棚卸実施日ごと | 棚卸の実施頻度に合わせる(月次・週次など) |
| 受注・出荷ログ | 受注から出荷確定までの経過と、キャンセル・変更の履歴 | 1受注ごと | 都度 |
| 返品・廃棄記録 | 返品・廃棄の理由、数量、処理日 | 1件ごと | 都度 |
| マスタ変更履歴 | 商品マスタ・単位・バーコードの変更履歴 | 変更ごと | 都度 |
項目が無い場合にまずやること
これらの項目が今のExcel運用に無い場合、最初から自動化や分析ツールを入れる前に、記録する運用に変えることが先になります。例えば入出荷履歴を紙の帳票にしか残していない場合、まずは1つのフォーマットに統一し、日付・担当者・商品・数量の4項目だけでも電子データとして残すところから始めます。項目を増やしすぎると現場の入力負担が増え、運用が止まる原因になるため、最初は差異分析に直結する項目に絞ります。例えば入出荷の件数が1日50件程度であれば、専用のシステムを入れずにスプレッドシートへの入力ルールを統一するだけでも、最初の半年は十分に運用できます。件数が増えてから専用の仕組みを検討する順序でも遅くありません。
AIに探らせる効果的な使い方

データが揃った状態であれば、AIは差異が発生しやすいパターンの仮説出しに向いています。例えば、ある商品群だけ棚卸差異が集中している、特定の曜日や時間帯の入荷後に差異が増えている、といった傾向を、人が全件を見比べるより早く拾い出せます。ただし、最終的にその原因が入力ミスなのか、ロケーションの運用ルールの問題なのか、万引きや破損のような現場要因なのかを判断するのは人です。AIが出すのは候補であり、確定した原因ではありません。
AIに投げる前に、どの期間・どの商品群のデータを対象にするかを絞っておくと、仮説の精度が上がります。全期間・全商品を一度に投げると、季節要因や一時的な欠品など、差異と無関係な変動も一緒に拾ってしまい、候補が多すぎて現場で検証しきれない状態になります。まずは差異の大きい商品群や期間を先に絞り込み、範囲を小さくしてから分析にかける進め方をPTは勧めます。
複数拠点・モール在庫がある場合の注意
拠点が複数ある場合や、Amazon・楽天・Yahoo!ショッピングなど複数モールで在庫を分けて持っている場合は、どの拠点・どのモールの在庫を指しているかをデータ項目に含めておく必要があります。拠点をまたいだ差異は、単一拠点の入出荷履歴だけでは原因が見えないことが多く、拠点間の移動記録も項目に加えておくべきです。拠点間の移動は、出荷と入荷が別々のタイミングで記録されるため、移動中の在庫をどちらの拠点の数として扱うかを決めておかないと、移動のたびに見かけ上の差異が発生します。
データが揃うまでの期間をどう考えるか
データ項目をすべて記録する運用に変えても、すぐに精度の高い原因分析ができるわけではありません。例えば入出荷履歴を電子データとして残す運用を始めたとして、最初の1〜2か月は入力の抜けや表記のばらつきが残り、分析に使える状態になるまでに一定の期間がかかります(仮の例です)。この期間を見込まずに「データを整備したのにAIで原因が分からない」と判断すると、本来必要な改善を途中で止めてしまうことになります。データ整備は一度の作業ではなく、入力ルールの定着まで含めて考える必要があります。
項目の優先度を決める考え方
6つのデータ項目をすべて同時にそろえようとすると、現場の入力負担が一気に増え、運用が定着しないまま止まってしまうことがあります。優先度を決める基準は、差異が実際に発生している工程から逆算することです。例えば棚卸のたびに差異が大きい場合は、棚卸記録とロケーション別在庫の2項目を先に整えます。返品やキャンセルに起因する差異が多い場合は、受注・出荷ログと返品・廃棄記録を先に整えます。すべての項目を同じ優先度で扱うのではなく、どの工程で差異が多いかを先に特定してから、整える順序を決めます。
社内で確認しておきたい前提
データ項目をそろえる前に、入力タイミングのズレがないかを確認しておきます。例えば出荷の実績登録が翌日になっている場合、当日の在庫数と実績登録後の在庫数が一致せず、差異として検出されることがあります。これは在庫そのものの差異ではなく、記録のタイミングの差です。原因分析を始める前に、各データ項目がいつ記録されているかを担当者に確認しておくと、見かけ上の差異に振り回されずに済みます。
あわせて読みたい記事として、「食品の賞味期限・ロット管理を、現場のタブレット運用だけで回す方法」と「モール3つの在庫連携、API開発か既製ツール利用かを決める判断基準」も参考にしてください。
PT に相談するなら
データ項目の整理から始めたい場合は、PT DISCOVERY(10万円〜、税込11万円〜)で現状のデータの持ち方を確認し、不足している項目を整理するところから入れます。データが一定そろっている場合は、PT WORKS(30万円〜、税込33万円〜)で差異分析の簡易実装まで約5時間で進める入り方もあります。料金は参加人数、テーマ数、事前調査の量、開発範囲で変わります。出張を伴う場合の交通費・宿泊費は実費です。
5つの質問で概算を見る、または資料請求で検討に使える資料を受け取れます。